きのさんのブログ

書きたいことを書きたいだけ

【うつ病】文字が読めなくなって太陽を見るようになった話

わたしはうつ病だ。

 

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ずっとうつ病だったが、1年前に脳みそがクラッシュして、とうとう仕事を辞めた。しばらくは起き上がるどころか枕に頭が沈み、トイレに行くために全力を尽くすような亡霊みたいな日々を過ごした。昼と夜は区別できる。おなかは空かない。暇だなという感覚はある。文字は読めない。寝てばかりは全く楽な生活ではなかった。常に不安と焦燥感が身体のなかでソワソワと渦巻く。まったくゆったりできない。安心感もない。しかし、何もできない。それを受診したときに伝えた。先生は椅子の背に体重を預けてひとつ、ふたつ、と約束ごとを教えてくれた。

 

①カーテンをレースカーテンにしなさい。遮光カーテン禁止。

これはすでに実行していた。今の病院の前に通っていた精神科で教えてもらっていたからだ。私の部屋には何年も前からレースカーテンしか掛かっていなかった。朝が来ると自然に分かる。すると、次の約束ごとを提示された。

 

②朝が来たらカーテンを開けなさい。雨でも開けなさい。朝日を見なさい。

これはやっていなかった。さっそくやることにした。治療を始めた頃は7時頃に目が覚めていた。季節は冬。日の出には間に合わないが、斜めに差し込んでくる真っ白な朝日を毎日眺めた。しばらくは眺めたあとに再び枕に頭が吸い寄せられていたが、やがて、そのまま行動に移せるようになった。なにより朝日は美しくて、毎日朝が来るのが楽しみになった。

 

③散歩をしなさい。太陽の光を浴びなさい。

これは双極性障害の残り香が若干やらかしていた。1日に3時間以上歩きまくったのだ。気楽な散歩ではなく、強迫観念のなせる行動だった。ひどいときはへとへとになるまで6時間以上歩いた。こんなところまで歩いてきたぞ、と思うと気分が良かったが、やりすぎた。これは徐々に改善され、散歩の意味が理解できるようになった。歩く、ということは下半身を動かす。腕を振ると全身運動になる。有酸素運動なので深い呼吸をする。なんといっても外は気持ちがいい。雨や曇りの日でも室内にいるよりも明るい世界にいられる。ひきこもりにならなくて済んだ。

 

あとはきちんと薬を飲んで、規則正しい生活をし、昼寝はせず、夜によく寝なさい、と言われた。食事内容については深くは追求されなかった。体重は10キロほどは減っていたのだが、幸か不幸かぽっちゃりしていたのでむしろ美容体重になっていたので気にされなかった。

 

たった3つの約束ごとをわたしは律儀に守った。はやく良くなりたかった。文字が読めないということがストレスだったからだ。はやくこの頭の中のモヤモヤをどうにかして、文字が読みたかった。世界中にあふれる情報を収集したかった。誰かの体験談を読んで安心したかった。物語の世界に入り込んで現実逃避したかった。しかし、読めないものは読めない。そこで、SNSをすべて絶った。入り浸っていたツイッターも、何時間でも眺めていたインスタグラムも、用もないのに次々に見ていたネットサーフィンも全くしなくなった。すると、何にも気にならなくなった。今、ここにいるわたしがすべて。文字のかわりに映像を見るようになった。YouTubeには精神病と向き合っているひとたちがたくさんいて、心の支えになった。それからAmazon Prime Videoで映画やアニメを見た。「ツレがうつになりまして」はその頃に出会った映画だ。

 

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徐々に頭を起こして動画を見るようになり、漫画を読むようになり、そうして春になってわたしは文字を取り戻す。一冊の単行本が読めるようになるまでにだいたい3ヶ月くらいはかかった。まずエッセイみたいな短い文章を読んだ。

 

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これは今の自分でも読める本を探して図書館をうろうろしてるときに見つけた【おいしい文藝】というシリーズの中の一冊。“ひんやり”とした“甘味”ばかりが出てくるエッセイ集。ひんやり甘い食感は疲れ切った感覚のなかでもやさしく明確に想像できてとても良かった。他にもパンやコーヒーやフルーツやお寿司なんかもある。普通の生活、普通の食事、そういう普通に戻りたかったわたしに光をくれた一冊だ。

 

そんなわけで今でもお医者さんとの約束を守り続けている。うつ病、と聞くと暗い室内で一日中鬱々としているイメージかもしれないが、本当の患者は光の中で自分の中の闇と戦っているのだ。

 

 

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